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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)3032号 判決 1992年1月30日

原告 井関農機株式会社 外一名

被告 橋本製袋株式会社 外一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告井関農機株式会社の請求

被告らは、別紙被告物件目録記載の籾袋を生産し、販売し、拡布し、輸出してはならない。

二  原告らの請求

被告らは、連帯して、原告井関農機株式会社に対し金三〇〇〇万円、原告日本パディバック工業会に対し金二〇〇万円及び右各金員に対する昭和六三年三月一日から各支払済まで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え。

第二事案の概要

一  原告井関農機株式会社の有していた権利

1  原告井関農機株式会社(以下「原告井関」という。)は、農業用機器の製造、販売等を目的とする株式会社である(争いがない)。

2 原告井関は、左記(一)の実用新案権を出願公告日(但し、設定登録前は出願公告に基づく仮保護の権利)から昭和五六年一一月八日まで(甲四八、弁論の全趣旨)、同(二)(1) の意匠権をその登録日から昭和六三年一〇月一二日まで(争いがない)、同(三)の専用実施権をその登録日から平成元年七月一七日まで(甲六二、六三、乙一、弁論の全趣旨)、それぞれ有していた(以下、右各権利を一括して「本件工業所有権」という。)。

(一) 実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)

考案の名称 穀粒用袋

出願日   昭和四一年一一月八日(実願昭四一-一〇三四六一)

出願公告日 昭和四七年九月三〇日(実公昭四七-三二五〇三)

登録番号  第一〇一五五九一号

実用新案登録請求の範囲

「穀粒袋の上端開口近傍部において、両側部にはこの袋上端部を支持するための支持杆に挿通する支持孔2、および

1.この支持孔が袋開口部の前側部と後側部とに独立に設けられている場合には支持孔の下側に位置して

2.または支持孔が袋両端部の前側部と後側部との接合部に位置して設けられている場合には支持孔の上側乃至下側に位置して

しかも袋内面に一体で袋口を開閉するチャックを設けた穀粒用袋の構造。」(別添実用新案公報参照)

(二)(1)  意匠権(以下「本件意匠権」といい、これに係る意匠を「本件意匠」という。)

出願日  昭和四一年一一月八日(前実用新案出願日援用。意願昭四四-四九九五)

登録日  昭和四八年一〇月一二日

登録番号 第三七四三九五号

意匠に係る物品 包装用袋

登録意匠 別添本件意匠公報記載のとおり

(2)  本件意匠に付帯している類似意匠1ないし6(以下、順次「本件類似意匠1ないし6」といい、一括して「本件類似意匠」という。)の出願日、登録日、登録番号、意匠に係る物品及び登録意匠は、別添類似意匠公報(一)ないし(六)記載のとおりである。

(三) 株式会社クボタ(旧商号「久保田鉄工株式会社」、以下「クボタ」という。)が有していた左記(1) <1>の意匠権(以下「クボタ意匠権」といい、これに係る意匠を「クボタ意匠」という。)についての同(2) の専用実施権(以下「本件専用実施権」という。)

(1) <1> 意匠権

出願日  昭和四三年三月一八日(意願昭四三-七七三七)

登録日  昭和四九年七月一七日

登録番号 第三八六八五三号

意匠に係る物品 穀物収納袋

登録意匠 別添クボタ意匠公報(一)記載のとおり

<2> クボタ意匠に付帯している類似意匠1(以下「クボタ類似意匠」という。)の出願日、登録日、登録番号、意匠に係る物品及び登録意匠は、別添クボタ意匠公報(二)記載のとおりである。

(2)  専用実施権

設定日  昭和五六年一一月二日

登録日  昭和五七年一月二九日

範囲 全部

二  原告井関のコンバイン袋の製造、販売

1  原告井関は、昭和四二年五月、他の農業用機器メーカーに先駆けて、自脱型コンバインの製造、販売を開始した。自脱型コンバインは、刈取機と脱穀機を組合せたもの(収穫脱穀同時作業機)で、コンバイン袋を袋支持杆に何枚も掛け、田に乗り入れて稲の刈取を行いつつ脱穀し、脱穀された籾(米の実が入っている)が自動的にコンバイン袋に収納される構造になっている(甲一三の1、2、一四、五八の1~3、証人山代吉宏〔以下「証人山代」という。〕、弁論の全趣旨)。

2  原告井関は、自脱型コンバインの製造、販売開始と同時にその付属品としてのコンバイン袋の製造、販売も開始し、昭和四四年一〇月ころからは、同原告と川崎重工業株式会社との共同出資で設立した販売会社、イセキカワサキサービス株式会社(以下「I・K・S」という。)を通じてコンバイン袋の販売をするようになった(甲一三の1、2、一四、五八の3、証人山代、弁論の全趣旨)。

3  コンバイン袋は、穀粒袋保持器を用いれば自脱型コンバイン以外の脱穀機用の籾収納袋等、農業機械用の穀粒収納袋としても使用可能なものである(証人山代、被告橋本清文〔以下「被告橋本」という。〕)。そこで、以下、本件においてはコンバイン袋を含む穀粒用収納袋のことを、便宜上「籾袋」という。

三  原告井関らによる籾袋の生産・販売体制

1  原告日本パディバッグ工業会(以下「原告工業会」という。)は、昭和四八年四月一日に、原告井関及び同原告の有する籾袋に関する工業所有権につき実施許諾(通常実施権)を得た複数の籾袋メーカー(以下「生産実施権者」という。)をもってその会員とし、籾袋に関する工業所有権の擁護、籾袋の円滑、適切な生産、販売等を図ることを目的として設立された社団であり、その会員の変動にもかかわらず存続し、かつ、その根本組織(代表の方法、総会の運営、財産の管理等)を定めた会則(昭和六二年九月二日から平成元年七月一八日までの間は規約)を有する、いわゆる権利能力なき社団である。設立当時の名称は「日本コンバイン袋協会」であり、遅くとも昭和五六年一二月一日には「日本特許商品開発協会」と改称され、更に昭和六二年九月二日に改称されて現在の名称になった。設立当時の生産実施権者(原告井関以外の会員)は、二八社であったが、その後変動があり、平成二年一二月四日現在の生産実施権者は一三社である。また、設立当時の生産実施権者の実施対象権利(すなわち、原告井関が生産実施権者に実施を許諾した籾袋に関する工業所有権)は、本件考案の出願公告に基づく仮保護の権利であったが、その後、本件意匠権の設定登録(昭和四八年一〇月一二日)、本件実用新案権の存続期間満了(昭和五六年一一月一八日)、本件専用実施権の設定登録(昭和五七年一月二九日)、本件意匠権の存続期間満了(昭和六三年一〇月一二日)に伴い変遷した(前記一の事実、甲一~四、五の1~3、六~一二、一六の1、二〇の3~5、三一、三四、三六の1、三八、四〇、五三の1、五七、五九の1、2、八〇、八一、証人山代、証人田治正光〔以下「証人田治」という。〕)。

2  原告井関らは、遅くとも昭和五三年七月以降、後記(一)ないし(四)の体制(以下「本件籾袋生産・販売体制」という。)の下に、別紙籾袋製造・販売態様略図記載のとおり籾袋を製造、販売している。すなわち、生産実施権者が籾袋を製造し、これを販売実施権者に販売し、これら販売実施権者が中間取引者(農器具店、経済連、販売店、資材商、スーパー、農協)に販売し、中間取引者が最終需要者たる一般農家に販売している(甲六~八、一七~一九、二〇の1~5、二三の1~14、三一~三五、三六の1、三八、四三~四六、四七の1~3、五〇の1~6、五一、五三の1、2、五四の1~22、五七、五九の1、2、六〇、六六の1、六八~七九の各1、2、乙一九の1~4、証人山代、証人田治)。

(一) 生産実施権者(原告工業会会員たる籾袋メーカー)は、規格化、統一化された形態、仕様の籾袋の製造を行い、これを原告井関の有する籾袋に関する工業所有権につき実施許諾(通常実施権)を得た販売実施権者(I・K・S、コンバイン・ハーベスタの本機メーカー、穀粒袋保持器メーカー、全国農業協同組合連合会〔略称「全農」〕、全国農業機械商業協同組合連合会〔略称「全商連」〕)に販売し、原告井関に対し、所定の実施料を支払う。

(二) 生産実施権者は、籾袋の製造に際して下請業者を使用する場合は、あらかじめ認可、登録された下請業者を使用すると共に、原告井関の承認を得て、当該下請業者との間で所定事項につき下請生産契約を締結する。

(三) 販売実施権者が販売する籾袋は、生産実施権者の製造、販売に係るものであり、籾袋の表面に、工業所有権、製造者及び販売者((1)  原告井関の有する籾袋に関する工業所有権の登録番号、(2)  原告工業会会員〔原告井関、生産実施権者〕の社名又は登録商標、(3)  販売実施権者の社名もしくは登録商標又は全農マーク)を印刷し(以下、「表示制度」という。)、更に原告工業会が発行する認証票(同原告の名称、原告井関の登録商標及び同原告の有する籾袋に関する工業所有権の登録番号を表示した認証票であり、昭和五七年から昭和六二年ころまでの間は、右表示の他にクボタの登録商標及びクボタ意匠の登録番号も表示されていた。)を付す(以下、「認証票制度」という。)。

(四) 原告工業会は、会員相互間の連絡、協調、親睦を図り、籾袋の円滑、適切な生産、販売及び普及を目的とする活動、需要予測のための活動、技術開発及び標準化のための活動、公報活動、権利侵害行為の調査、排除措置等を行い、その運営費は、原告井関の実施料収入の一部及び会員の拠出金をもって賄う。

3  原告工業会は、クボタ意匠権(本件専用実施権)の存続期間満了(平成元年七月一七日)により本件工業所有権が全て消滅した同月一八日、会則の一部を改正して、籾袋に関する不正競争防止法により守られる権益の擁護等をその活動目的に掲げ、更に、原告井関及び原告工業会は、平成二年一一月一日、生産実施権者に対し、本訴において原告井関が有すると主張している、後記原告籾袋の形態に係る不正競争防止法一条一項一号に基づく商品表示を利用する権利の使用を許諾するに至った(甲六八~七九の各1、2、八〇)。

4  本件籾袋生産・販売体制の下で、現在、原告井関らが主として製造、販売している籾袋は、別紙原告物件目録記載(一)、(二)の籾袋(以下、(一)の取っ手のないものを「原告籾袋(一)」と、(二)の取っ手つきのものを「原告籾袋(二)」といい、両者を一括して「原告籾袋」という。)である(甲四一、検甲一の1~6、二の1~7、検乙一、証人山代、証人田治、被告橋本)。なお、原告籾袋(二)の角袋本体の表裏両面の各上辺に取っ手をつけたもの(上部取っ手付き型)もある(検乙六の1、2、証人山代、被告橋本)。

四  被告らの行為

1  被告橋本製袋株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告橋本の個人営業を法人化した橋本商事株式会社の営業を承継して、昭和四九年八月三一日に設立された産業用袋縫製加工等を目的とする株式会社である。被告橋本は、現在の被告会社の代表取締役橋本剛一の実父であり、設立当時は被告会社の代表取締役であったが、現在は取締役である(乙一四、被告橋本、弁論の全趣旨)。

2  被告会社(当時の代表者は被告橋本)は、昭和五〇年ころから原告工業会の会員(生産実施権者)である株式会社テザック(旧商号「帝国産業株式会社」、以下「テザック」という。)、小泉製麻株式会社、岸工業株式会社、石川株式会社、萩原工業株式会社、昭和貿易株式会社、昭和製袋工業株式会社、田中産業株式会社、山甚化成工業株式会社及び富山工業株式会社の合計一〇社を元請とする籾袋の下請生産を開始し、昭和五四年一一月三〇日には、原告井関並びに右一〇社のうちのテザック、小泉製麻、岸工業、石川、萩原工業及び昭和貿易の合計六社との間に、左記内容の籾袋下請生産契約を締結し、右契約は昭和五九年一一月三〇日まで更新された(但し、契約書を作成したのはテザック関係のみである。甲五の1、一七~一九、二〇の2~5、証人山代、証人田治、被告橋本)。

(一) 原告井関は、右六社が本件考案及び本件意匠(但し、昭和五七年一二月一日に更新された契約からは本件意匠及びクボタ意匠)に係る籾袋を被告会社に下請生産させることを許諾する。

(二) 被告会社は、下請生産にかかる籾袋を、発注先である右六社以外の者に譲渡しない。

(三) 被告会社は、籾袋の加工の一部を他に外注することができる。

(四) 被告会社が契約に違反して籾袋を生産、販売した場合、被告会社は、原告井関に対し、一袋につき三〇円の違約金を支払う。

3  被告会社は、昭和五七年一二月三〇日、株主総会において解散の決議をし、昭和五八年二月九日、その旨の商業登記を経由したが、そのころ、被告橋本は、被告会社の営業を承継した(乙一四、被告橋本、弁論の全趣旨)。

4  被告橋本は、昭和六一年一二月一日、原告井関及び前記六社のうち萩原工業を除く五社(以下「被告関係会員」という。)との間に、左記内容の籾袋下請生産契約(以下「本件下請生産契約」という。)を締結した(但し、契約書を作成したのはテザック関係のみである。甲二〇の1、証人山代、証人田治、被告橋本)。

(一) 原告井関は、被告関係会員が本件意匠及びクボタ意匠に係る籾袋を被告橋本に下請生産させることを許諾する。

(二) 被告橋本は、下請生産にかかる籾袋を、発注先である被告関係会員以外の者に譲渡しない。

(三) 被告橋本は、籾袋の加工の一部を他に外注することができる。

(四) 被告橋本が契約に違反して籾袋を生産、販売した場合、被告橋本は、原告井関に対し、一袋につき三〇円の違約金を支払う。

(五)(1)  契約の有効期間は、契約成立の日から一年間とする。但し、原告井関、被告関係会員及び被告橋本のいずれかから書面による解約の申出がなければ、以後一年毎自動的に延長する。

(2)  契約の有効期間は、本件意匠権及び本件専用実施権(クボタ意匠権)が消滅したときは満了する。

5  被告会社は、昭和六二年一月一日、株主総会において会社継続の決議をし、橋本剛一が代表取締役に就任し、同年四月二〇日、その旨の商業登記を経由して、そのころ、被告橋本の個人営業を承継した(乙一四、被告橋本、弁論の全趣旨)。

6  被告会社は、昭和六二年九月ころから一〇月ころにかけて、川口機械産業株式会社に対して、その製造にかかる別紙被告物件目録記載の籾袋(以下「被告籾袋」という。)一万九五〇〇袋を販売し、以後、被告関係会員以外の者に被告籾袋を販売している(甲二二の1、2、乙五~八、検甲四の1~10、被告橋本、弁論の全趣旨)。

五  原告籾袋の形態

原告籾袋の形態は、別紙原告物件目録添付図面のとおりであるが、次のとおり分説するのが相当である(別紙原告物件目録。なお、1、2・・・の番号は、同目録添付の(一)AないしC及び(二)AないしCの図面記載のものである。)。

<1>  角袋本体1の上辺は、内側に折り曲げて縫着され、

<2>  該上辺を開口部2とし、

<3>  該開口部2には、ファスナー3が縫着され、

<4>  前記角袋本体1の下辺は、外側に折り返して縫着され、該下辺には、取っ手7が縫着されており又は縫着されておらず、

<5>  前記角袋本体1の角部には、いずれも、縫い合わせ4が斜めに施されると共に、

<6>  上部角部には、逆台形の補強片6が縫着され、

<7>  該補強片6の縫着部には、環状鳩目金属が装着された掛合用孔5が穿設されている、

<8>  籾袋。

六  原告らの請求の概要

1  原告井関の差止請求

原告籾袋の形態は、遅くとも昭和五三年一二月ころには、原告井関、生産実施権者及び販売実施権者によって形成された実施権者グループの商品の形態を示すものとして、中間取引者及び最終需要者間に広く認識され、不正競争防止法一条一項一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」となったこと、被告籾袋の形態は原告籾袋の形態と同一又は類似のものであることを理由に、被告籾袋の生産、販売等の差止を請求。

2  原告井関の損害賠償請求

左記(一)につき、被告会社は、本件下請生産契約の有効期間中に右契約名義人である被告橋本の個人営業を承継したから、同被告と重畳的に右契約上の債務を負い、左記(二)、(三)につき、被告橋本は、商法二六六条ノ三第一項により、被告籾袋の直接の生産者である被告会社と連帯して損害賠償債務を負うことを理由に、同(一)ないし(三)の順に、三〇〇〇万円に達するまで請求。

(一) 本件下請生産契約違反による損害金

本件下請生産契約の有効期間(一年間延長・自動更新)内である昭和六二年九月から昭和六三年一一月三〇日までの間に、右契約の対象たる本件意匠及びクボタ意匠に類似する(仮にそうでないとしても、昭和六二年八月ころそれを右契約の対象物件に含める旨の合意がなされた)被告籾袋を三三九万四五〇〇袋販売し、右契約に違反したことによる約定損害金一億〇一八三万五〇〇〇円(一袋当たり三〇円)

(二) 不正競争防止法違反による損害金

本件下請生産契約終了後である昭和六三年一二月一日から平成三年六月三〇日までの間に被告籾袋二九六万七〇〇〇袋を販売し、前記1の不正競争防止法違反行為をしたことによる実施料相当損害金一七八〇万二〇〇〇円(一袋当たり六円)

(三) 意匠権侵害による損害金

本件意匠及びクボタ意匠に類似する被告籾袋を、昭和六二年九月から平成元年六月三〇日(本件専用実施権〔クボタ意匠権〕が消滅した月の前月末日)までの間に四九六万九五〇〇袋販売し、本件意匠権(昭和六三年一〇月一二日まで)及び本件専用実施権を侵害したことによる実施料相当損害金二九八一万七〇〇〇円(一袋当たり六円)

3  原告工業会の損害賠償請求

被告橋本は、商法二六六条ノ三第一項により、被告籾袋の直接の生産者(債務不履行者又は不法行為者)である被告会社と連帯して損害賠償債務を負うことを理由に、左記(一)、(二)の損害金合計四五七万一九四〇円の内金請求。

(一) 原告井関との契約関係(原告井関は、原告工業会に対し、原告井関の実施料収入の七パーセントに相当する金員を支払う旨を約したこと)に基づく得べかりし利益相当損害金二〇八万七一九〇円(前記2(三)の原告井関の損害金×〇・〇七)

(二) 原告工業会会員との間の契約(各会員は、原告工業会に対し、一袋当たり五〇銭の拠出金を支払う旨を約したこと)に基づく得べかりし拠出金相当損害金二四八万四七五〇円(前記2(三)の被告籾袋の販売数×五〇銭)

七  争点

1  不正競争防止法一条一項一号違反の有無

(一) 原告籾袋の形態がいわゆる商品表示性及び周知性を取得したか。

(二) 原告井関主張の実施権者グループは同号にいう「他人」たりうるか。

(三) 被告籾袋の形態は原告籾袋の形態と同一か、又は類似するか(両籾袋の出所混同の有無)。

(四) 原告井関は、営業上の利益を害せられるおそれのある者か。

2  本件下請生産契約違反の有無

(一) 被告籾袋の意匠は本件意匠、クボタ意匠と類似するか。

(二) 右(一)が認められない場合、被告籾袋を右契約の対象物件にする旨の合意がなされたか。

(三) 右契約は昭和六二年一一月三〇日に自動更新され、その有効期間は昭和六三年一一月三〇日まで延長されたか。

3  本件意匠権及び本件専用実施権侵害の有無(争点2(一)と同旨)

4  原告らの損害額(右1ないし3のいずれかが認められる場合に、被告らが支払うべき損害の金額)

第三争点に対する判断

一  争点1(一)(原告籾袋の形態が商品表示性及び周知性を取得したか)について

1  原告らの主張

昭和四二年五月に原告井関が製造、販売を開始した当時の籾袋は原告籾袋(一)であり、以来現在まで、原告籾袋の形態は、ある時期からこれに原告籾袋(二)が付加された(すなわち、取っ手の縫着)以外は、一切変更されていない。原告籾袋の形態は、上部角部近傍の丸い掛合用孔5、掛合用孔5の周囲に縫着された逆台形の補強片6の存在及びその形状の点において、商品表示となり得る特徴を備えている。右形態の原告籾袋はすべて、別紙籾袋製造・販売態様略図記載のとおり、本件籾袋生産・販売体制、すなわち原告工業会の下に原告井関との許諾関係に基づいて結集した生産実施権者により生産され、同原告と許諾関係にある販売実施権者により販売されるとの体制により製造、販売されてきた。右体制は原告工業会の前々身である日本コンバイン袋協会が設立された昭和四八年から現在まで維持、継続され、右体制によって販売された籾袋は合計二億七一三〇万袋以上に達している。右籾袋のうち原告籾袋以外の形態のもの、すなわち四ツ目型、両耳型及びデラックス袋の数量的比率は、合計で全籾袋中一〇パーセント以内でしかなく、原告籾袋のシェアは九〇パーセント以上である。また、原告籾袋には、原告工業会の認証票が貼付され、生産実施権者の名称、販売実施権者の名称及び原告井関が有していた本件工業所有権の表示がなされてきたから、原告籾袋の形態は、中間取引者(農器具店、経済連、販売店、資材商、スーパー、農協)、最終需要者(農家)に対し、原告工業会の名称、生産実施権者及び販売実施権者の名称、原告井関の工業所有権と常に関連づけられて表示されてきた。そして、度重なる宣伝・広告、新聞報道、原告井関らによる侵害行為の排除等がなされており、同一形態の大量の籾袋が独占的に長期間にわたって同一体制により頒布されてきたから、原告籾袋の形態が、原告井関、生産実施権者及び販売実施権者によって形成された実施権者グループの商品の形態を示すもの(すなわちセカンダリーミーニング)として出所表示機能を取得し商品表示となったこと、右商品表示が周知性を取得したことは明らかである。

2  当裁判所の判断

(一) 事実関係

(1)  原告籾袋の形態の機能性

原告籾袋の形態<4>(角袋本体下辺の外側折返し縫着。以下「底部三つ折り二重環縫い」ともいう。)は、袋の底部を補強するためのもの(乙八、被告橋本)、同<5>(四つの角部に施された斜めの縫い合わせ)は、袋の上部の補強片縫着部や下部角部に籾が入り込んで取り出し難くなるのを防止するためのもの、同<6>(補強片)は、掛合用孔穿設部分の強度を補強するためのもの、同<7>(環状鳩目金属が装着された掛合用孔)は、自脱型コンバイン等の農業用機械や穀粒袋保持器の支持杆に引っ掛けるためのものであり、原告籾袋の形態はすべてコンバイン用穀粒収納袋としての機能に由来するものであって、原告籾袋の形態それ自体には格別特異なところはない。

(2)  流通段階における原告籾袋の実態

前示の表示制度、認証票制度により、原告籾袋の表面には、生産実施権者の名称ないし商標、販売実施権者の名称ないし商標及び原告井関が有する籾袋に関する工業所有権の表示がなされ、原告工業会の認証票が付されているが、これを子細に検討すると、販売者である全農やコンバイン・ハーベスタのメーカー名ないし商標が大きく印刷して表示されているのに対し、その余の事項の表示は小さいし、認証票は(中にはこの他に「国産優良コンバイン袋」との表示の下に原告工業会名を表示したシールが付されているものもあるが、このシールも)小片にすぎず、しかもそのほとんどが補強片の下にその一部が縫い込まれており、人目を引くのは販売者である全農やコンバイン・ハーベスタのメーカーの名称ないし商標である(検甲一の1、2、5、二の1、2、5~7、六の1~6の各A~C、検乙一、五、七、八の1、2)。そのうえ、右認証票は本来原告井関の実施許諾品であることを表象するものであり、右シールはせいぜい業界団体による品質保証表示として機能するにすぎないものと考えられるから、そもそも右表示、認証票及びシール自体から、当該籾袋の販売者や製造者の他に、原告ら主張の実施権者グループの存在を直ちに想起することは困難であること、前示のとおり籾袋自体が本来コンバイン用の付属品といった性格が強い商品であること及び後記コンバイン・ハーベスタのメーカーのシェア等(特にクボタの存在)に照らすと、最終需要者である農家にとって、原告籾袋は、それぞれその表面に大きく表示された販売業者の名称ないし商標により、「井関の籾袋」、「クボタの籾袋」、「ヤンマーの籾袋」、「三菱農機の籾袋」、「全農の籾袋」等といったように、これら表示の各販売業者の籾袋と通常認識されるものと認められる。従って、最終需要者間において、原告籾袋が右「実施権者グループの籾袋」、すなわち特定の統一的企業体群の商品であることが広く認識されているとはおよそ考えられない。また、中間取引者(農器具店、経済連、販売店、資材商、スーパー、農協等)の大部分についても、事情は同じであると考えられる。

コンバイン及びハーベスタは、原告井関、クボタ及びヤンマー農機株式会社(以下「ヤンマー」という。)が三大メーカーであり、昭和四六年以降それぞれ三〇パーセント前後のシェアを占めており、その下位に三菱農機株式会社(以下「三菱農機」という。)があり、その余は群小メーカーである(甲一三の2、証人山代、弁論の全趣旨)。そのうち、クボタは、原告井関との本件専用実施権設定契約締結(昭和五六年一一月二日)以前は、本件考案につき仮保護の権利の段階から原告井関の実施許諾(通常実施権)を得ていたものの、クボタ意匠権に基づき独自に籾袋の製造、販売をしていた(その中には被告会社製造に係る原告籾袋(一)と同一の形態の籾袋も含まれていた。)。その後、クボタは昭和五七年から本件専用実施権(クボタ意匠権)の存続期間が満了した平成元年までの間、本件専用実施権設定の対価徴収の必要上、本件籾袋生産・販売体制の下で籾袋を販売したものの、その間昭和六一年までは原告工業会(当時の名称は日本特許商品開発協会)の特別会員であったが、昭和六二年以降は会員ではなく、常に右体制とは一線を画したアウトサイダー的な存在であった(甲三八、六〇、乙一九の1~4、検乙一〇、一一、証人山代、証人田治、被告橋本、弁論の全趣旨)。

(3)  原告井関らが製造、販売した原告籾袋の数量

昭和四二年五月以降現在までの間に、当初は原告井関により、原告工業会が設立された昭和四八年四月一日前後からは本件籾袋生産・販売体制類似の体制により籾袋の販売を開始し、その後本件籾袋生産・販売体制に移行してその販売を継続し、そのような体制下において販売された籾袋は、本件考案の出願公告直後の昭和四七年一〇月一日から昭和六二年一一月末日までの間でも合計二億七一三〇万袋以上に達している(甲一三の1、2、一六の1~16、六四の1~3、証人山代)。右販売実績に係る籾袋中には、原告籾袋の形態と全く違う形態のもの(以下「異形籾袋」という。)、すなわち四ツ目型(角袋本体の表裏両面の各上辺の両端から各ほぼ三分の一ずつのところに掛合用孔〔合計四個〕が穿設され、上辺中央部に左右に伸びた長方形の補強片が縫着され、上辺全部が開口可能とされ、開口部のファスナーが掛合用孔の下側に縫着されたもので、「サトータイプ」ともいい、佐藤造機株式会社〔現在の三菱農機〕に由来するものと考えられる。検甲七のA~C、検乙三の1、2)、両耳型(掛合用孔及び補強片がなく、袋本体の上部両端が斜めに切り取られ〔上辺が下辺よりも短い〕、上部両端の斜辺部に掛合用の紐が縫着されたもの。検甲八のA~C)及びデラックス袋(角袋本体の上辺ほぼいっぱいに左右に伸びた長方形の補強片が縫着されたもので、クボタ独自の商品である。検乙二の1、2)も含まれているが、これら異形籾袋の数量的比率は、全籾袋中合計で一〇パーセント前後にすぎない(甲二三の1、三八、五三の2、六〇、乙一九の1~3、証人山代、証人田治)。

原告らはその余の九〇パーセント前後がすべて原告籾袋の形態を具備した籾袋であると主張する。しかしながら、a 昭和四二年八月に発行された原告井関の自脱型コンバインのパーツリストに図示されている籾袋の補強片は逆台形であるが、角袋本体の下辺に底部三つ折り二重環縫いがなく、下部角部に斜めの縫い合わせもないこと(甲五八の3)、b 別添実用新案公報第2図には下部角部に斜めの縫い合わせがない穀粒用袋が示されていること、c 昭和五〇年一〇月一日以降の生産分につき認証票制度が採用された際、その旨を報じた昭和五一年二月二三日付合繊タイムスの記事及び原告工業会(当時の名称は日本コンバイン袋協会)作成の同月一四日付「認証票によるコンバイン袋の生産販売管理要領」に図示された籾袋の補強片の形状は横辺が縦辺より少し長い長方形(目視では正方形に見える。)であること(甲二三の1、五三の2)、d そのころ補強片の形状がほぼ正方形であるほかは原告籾袋(一)と同じ形態の籾袋が、生産実施権者であるスミクラ株式会社により製造され、販売実施権者である旭陽工業株式会社により販売されていたこと(甲一、二〇の3、五三の1、五四の15、16、検乙九の1、2、被告橋本)、e 被告会社は、昭和四四年ころから(当時は前身である橋本商事株式会社)独自の技術により原告籾袋(一)と同じ形態の籾袋を製造し、直接又はテザック等を通じてクボタに販売していた(乙八、一四、一九の1~4、検乙一〇、一一、一六、被告橋本)が、前示のとおり被告会社が本件籾袋生産・販売体制の下において下請生産をするようになったのは昭和五〇年ころ以降であること、f 原告工業会に昭和五二年七月から在職している証人田治(現在同原告の専務理事兼事務局長)は、当初、補強片の形状がほぼ正方形であるものが多く、昭和五三年以降次第に逆台形のものに統一されていった旨の証言をしていること、g 原告井関作成、神戸税関長宛ての昭和五五年一二月二六日付「無体財産権(本件実用新案権及び本件意匠権)侵害物品についての輸入差止申立に関する上申書」には、本件籾袋生産・販売体制の対象となる籾袋の形状は、別添実用新案公報第2図の袋すなわち別添本件意匠公報記載の意匠の形状の袋(それは原告籾袋と大幅に形態を異にする)に規格統一されたものである旨の記載があること(甲三六の1)、h 本件籾袋生産・販売体制の下において籾袋の生産に従事してきた生産実施権者及びその下請生産業者は多数存在し、かつ変動もあった(甲一~四、五の1~3、二〇の2~5)から、籾袋の規格、仕様の統一を達成するには長期間を要したと考えられることに照らすと、補強片の形状が逆台形に統一されるなどして、原告籾袋の形態が確定したのは早くても昭和五五年以降であると推認される。前記販売実績に係る籾袋のうちには、異形籾袋以外にも、原告籾袋の形態のうち<4>(底部三つ折り二重環縫い)、<5>(下部角部斜め縫い合わせ)及び<6>(逆台形の補強片)のいずれか(特に<6>)を具備しないものが相当数含まれていたものと考えられる。

また、昭和五一年ころから、原告ら主張の実施権者グループ内では、異形袋と区別する必要から、大まかに原告籾袋(一)のように、角袋本体上辺は内側に折り曲げて縫着し、上辺の開口部にはファスナーを縫着し、角袋本件上部角部には縫い合わせを斜めに施し、上部両角部に掛合用孔(合計二個)を穿設した形態の籾袋を「井関タイプ」と呼んでいたことが認められる(甲二三の1、五三の1、2、証人山代、証人田治)が、前示の流通段階における原告籾袋の実態に照らして考えると、右通称は、その籾袋の製造販売業者とは無関係に、二つ目(二つ孔)タイプのコンバイン用籾袋を指称する略称であり、湿式コピー機によりコピーすることを「リコピーする。」とか、乾式コピー機によりコピーすることを「ゼロックスする。」とかいう類のものにすぎず、最終需要者である農家はもちろん、中間取引者の間において、「井関タイプ」といえば正確に前示の<1>ないし<8>の形態を具備した、原告ら主張の実施権者グループの製造販売にかかる原告籾袋を意味するものと広く認識されているとは認められない。

(4)  新聞報道、宣伝広告等

原告工業会が遅くとも昭和五五年以降、毎年の需要見通し・出荷実績を業界の専門通信紙に発表してきたこと(農業資材通信・甲二三の2~14、弁論の全趣旨)、昭和五三年に認証票偽造事件が一般新聞(日本経済新聞・甲二四、二五、二七、読売新聞・甲二八)や業界新聞(合繊タイムス・甲二六、二九、三〇)で報道されたこと、昭和五三、五四年に原告らは管理体制を強化する旨を業界新聞に発表し、認証票に関する警告広告を掲載したこと(合繊タイムス・甲二九~三一、農機タイムス・甲三二、農村機器ニュース・甲三三、農機新聞・甲三四、三五)、原告らが昭和五一年以降侵害行為を排除するための努力をしてきたこと(甲三六の1~16、三七、三九、四〇)が認められる(証人山代、証人田治)。しかしながら、右報道や広告はいずれも原告籾袋の形態を明示したうえで右形態と本件籾袋生産・販売体制とを関連づけてなされたものではない。

(二) 結論

以上のとおり、本件籾袋生産・販売体制による長期間にわたる大量の籾袋の販売、表示制度、認証票制度、宣伝・広告、新聞報道等の事実を認めることができるけれども、原告籾袋の形態はすべてコンバイン用穀粒収納袋としての機能に由来するものであって、原告籾袋の形態それ自体には格別特異なところはないこと、及び流通段階において原告籾袋の大部分は、その表面に大きく表示された販売業者の名称ないし商標により、「井関の籾袋」、「クボタの籾袋」、「ヤンマーの籾袋」等と通常認識されるものと認められることに照らして考えると、右(一)認定の事実関係の下においては、原告ら主張の昭和五三年一二月ころはもちろんのこと、本件口頭弁論終結時において、原告籾袋の形態が、原告井関、生産実施権者及び販売実施権者によって形成された実施権者グループの商品形態を示すものとして商品表示性(出所表示機能)及び周知性を取得していた旨の原告らの主張を認めることはできない。他に右主張事実を認めるに足りる証拠もない。

従って、その余の点につき判断するまでもなく、原告井関の不正競争防止法違反を理由とする差止・損害賠償請求はいずれも理由がない。

二  争点2(一)及び同3(被告籾袋の意匠は本件意匠、クボタ意匠と類似するか)について

1  原告らの主張

本件意匠の構成及び被告籾袋の意匠(以下「被告意匠」という。)の構成は、いずれも左記のとおりであり、両者は一致するから、両者の美感は同一である。また、クボタ意匠の構成は、本件意匠の構成とほぼ同一である。従って、被告意匠は、本件意匠及びクボタ意匠と類似する。

(一) 角袋本体の上縁を開口部とし、

(二) 該開口部には、ファスナーが縫着され、

(三) 前記角袋本体の角部には、いずれも、縫い合わせが斜めに施されると共に、

(四) 上部角部には掛合用孔が穿設されている、

(五) 籾袋。

2  被告らの主張

本件意匠とは別個にクボタ意匠が設定登録された事実に鑑みても、本件意匠の類似範囲が原告ら主張のように広いものでないことは明らかである。

3  当裁判所の判断

(一) 対象物品の同一性

被告籾袋が、本件意匠に係る物品「包装用袋」及びクボタ意匠に係る物品「穀物収納袋」・「包装用袋」に該当することは明らかである。

(二) 本件意匠・クボタ意匠及び被告意匠の各構成

(1)  本件意匠の構成は、次のとおりである(別添本件意匠公報)。

<1> 袋本体は丸隅取りをなした角袋である。

<2> 袋本体の上辺の後記両縫い合わせの間を開口部とし、開口部の内側にはファスナーが縫着されている。

<3> 袋本体の角部には、いずれも斜めの縫い合わせが施され、上部角部の縫い合わせ内は、袋本体の上辺より左辺又は右辺の方が長い三角形を、下部角部の縫い合わせ内は、袋本体の下辺より左辺又は右辺の方が長い三角形をそれぞれ形成している。

<4> 上部角部には、いずれも前記縫い合わせ内ほぼ中央部位に真円の掛合用孔が形成されている。

(2)  クボタ意匠の構成は、次のとおりである(別添クボタ意匠公報(一))。なお、クボタ類似意匠1の構成は、袋本体の上辺中央部に、その中央部位に、真円環状の鳩目補強材を装着した、真円の掛合用孔が形成されている長方形の取っ手が縫着されているとの構成が加わるものである(同クボタ意匠公報(二))。

ア 袋本体は角袋である。

イ 袋本体の上辺の後記両縫い合わせの間を開口部とし、開口部の内側にはファスナーが縫着されている。

ウ 袋本体の角部には、いずれも斜めの縫い合わせが施され、角部は、いずれも縫い合わせを底辺とする二等辺三角形を形成している。

エ 上部角部には、いずれも前記縫い合わせ内中央部位に、真円環状の鳩目補強材を装着した、真円の掛合用孔が形成されている。

(3)  被告意匠の構成は、次のとおりである(別紙被告物件目録添付のAないしDの図面)。

a 袋本体は角袋である。

b 袋本体の上辺の後記両縫い合わせの間を開口部とし、開口部の内側にはファスナーが縫着されている。

c 袋本体の正面・背面とも、袋本体の上辺部少し下方には、上辺の折り返し縁が正面側と背面側に別々に外側へ折り返され、更に縁端を畳み込んで二重折りとし、これが上辺と平行な二条の縫い目により縫着されている。

d 袋本体の角部には、いずれも斜めの縫い合わせが施され、上部角部の縫い合わせ内は、袋本体の上辺より左辺又は右辺の方が長い三角形を、下部角部の縫い合わせ内は、袋本体の下辺より左辺又は右辺の方が長い三角形をそれぞれ形成している。

e 上部角部には、いずれも前記縫い合わせ寄りの部位に袋本体の上辺及び前記縫い合わせの一部を被覆する逆台形の補強片が、外縁に沿ってその内側を逆台形の縫い目により縫着され、補強片のほぼ中央部位に、周囲に真円環状の鳩目金属を装着した、真円の掛合用孔が形成されている。

f 袋本体の下辺部には、袋本体背面側(外側)へ下辺の折り返し縁がまとめて折り返され、更に縁端を畳み込んで二つ折りとし、これが下辺と平行な一条の縫い目により縫着され、左右ともその縫糸の余端糸が撚られた状態で少し残置されている。

(三) 本件意匠と被告意匠との類否

構成<2>と構成b、構成<3>と構成dとはそれぞれほぼ同一である。構成<1>と構成aとは少し相違するが、本件類似意匠3及び4は袋本体が丸隅取りのない角袋である(別添類似意匠公報(三)、(四))から、右相違により直ちに被告意匠と本件意匠との類似性を否定することはできない。構成<4>と構成eは相違するが、本件類似意匠4の真円の掛合用孔は真円環状の鳩目補強材を装着している(同公報(四))し、同5の真円の掛合用孔は逆台形の補強片の縫着も真円環状の鳩目補強材の装着もある(同公報(五))から、右相違により直ちに被告意匠と本件意匠との類似性を否定することはできない。

しかし、構成fは、本件意匠にも本件類似意匠にもない構成である。本件類似意匠2には、袋本体の下辺部上方に、左右の斜めの縫い合わせらしい線のほぼ中点を結んで、下辺に平行な一条の縫い目らしい線が示されている(同公報(二))が、斜めの線は実線であるのに対し、下辺に平行な線は破線である。本件意匠及び本件類似意匠を通じて、縫い目は実線で示されていると認められるから、下辺部左右の斜めの線が縫い目であるとすると、下辺部の破線は袋内側に下辺部の折り返し縁が折り返された状態を示しているとも考えられるが、そうすると斜めの実線から両左右外方に破線が伸びていない状態が説明できない。この破線を縫い目と見ても、正面図(背面図も同一)、右側面図(左側図面も同一)及び底面図からすると、折り返し不要の底部シームレスの袋であるか、又は下辺部の折り返し縁が袋内側に折り返されているものであることは明らかであるから、折り返し縁が背面外側に折り返され、縫糸の余端糸が残置されている被告意匠とは明らかに袋本体底部の形状が異なる。本件類似意匠3も同様であり、下辺部上方の左右の斜め線の下方を結ぶ下辺に平行な線は縫い目と見られるが(それが斜めの線から左右外方に伸びていないことと、側面図からすると、折り返された下端縁と見ることはできないことは明らかである。)、正面図(背面図も同一)、左側面図(右側面図も同一)及び底面図からすると、折り返し不要の底部シームレスの袋であるか、又は下辺部の折り返し縁が袋内側に折り返されているものであることは明らかであるから、折り返し縁が背面外側に折り返され、縫糸の余端糸が残置されている被告意匠とは明らかに袋本体底部の形状が異なる。また、上辺の折り返し縁が正面側と背面側別々に折り返された構成cも、本件意匠にも本件類似意匠にもない構成である。そして、右構成c及びfは、使用時、流通時においてもっとも看者、取扱者の注意を引く重要部分である、袋本体の開口部及び底部の形状であり、正面及び背面の上辺及び下辺部に表れる模様であるから、被告意匠と本件意匠とは美感を異にするというべきである。従って、両者が類似するとはいえない。

(四) クボタ意匠と被告意匠との類否

構成ア、イと構成a、bとはそれぞれほぼ同一である。構成ウと構成dとは、角部と縫い合わせとによって形成される三角形の形状の点において相違するが、類似の範囲に入る可能性がある。

しかし、構成エと構成eは、クボタ意匠には逆台形の補強片がない点において相違する。構成c及びfは、いずれもクボタ意匠にはない。従って、右(三)(本件意匠と被告意匠との類否)の判示と同旨の理由により、両者は美感を異にし、両者が類似するとはいえない。

(五) 結論

以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告井関の意匠権侵害を理由とする損害賠償請求は理由がない。

三  争点2(二)(被告籾袋を本件下請生産契約の対象物件に含める旨の合意がなされたか)について

1  原告らの主張

被告らは、昭和六二年七月、被告関係会員(テザック他四社)を経由して、原告井関に、本件下請生産契約に基づき生産中の原告籾袋の仕様変更(以下「本件仕様変更」という。)を申請した。本件仕様変更は、原告籾袋の開口部の周囲が別紙原告物件目録添付(一)Dの図面中符号Qで示されるとおり、内側に折り曲げ縫着されていたのを、別紙被告物件目録添付Dの図面中符号Qで示されるとおり、当該開口部の上部端縁を外側に折り曲げ縫着するというものである。原告井関は、同年八月、本件仕様変更を承認し、その後一時期、被告らは、右仕様変更後の物件(すなわち被告籾袋)を本件下請生産契約に基づき生産していたから、被告籾袋を右契約の対象物件に含める旨の合意が成立した。

2  当裁判所の判断

(一) 事実関係

(1)  被告橋本は、昭和六一年、籾袋の開口部の上部端縁の折り返し部縫製の合理化のため、外側折り曲げ専用自動ミシンを導入し、同年八月ころ、右縫製方法によって籾袋を生産したい旨(すなわち本件仕様変更)をI・K・Sに申入れ、その内諾を得たこと(甲四七の2、3、四九、検乙一四、一五の各1、2、被告橋本)、(2)  被告関係会員(テザック他四社)は、それぞれ昭和六二年七月、I・K・Sを通じて原告井関に取っ手付き外側折り曲げ籾袋(被告籾袋の角袋本体の下辺に取っ手が縫着されたもの。以下「取っ手付き外折れ籾袋」という。)の承認願図を提出し、同原告の技術部及び品管部の担当者は同図を承認したこと(甲四三~四六、四七の1、3、証人山代)、(3)  被告橋本又は被告会社が原告井関の正式採用を見込んで製造した取っ手付き外折れ籾袋が、当時原告井関の純正籾袋として取り扱われたこと(検甲三の1~6、証人山代、被告橋本)が認められる。他方、(4)  テザックは、昭和六一年九月、一旦原告工業会から本件仕様変更不採用の通知を受けたこと(甲四七の3)、(5)  テザックは、昭和六二年七月、I・K・Sの要請で右(2) の承認願図を提出したが、昭和六三年六月一七日に至るも、I・K・Sから正式採用の通知はない(右承認願図に承認印を押したものの返却を受けていない)こと(甲四五、四七の3)、(6)  橋本剛一は、昭和六一年二月二四日に前記(1) の縫製方法に係る包袋に関する実用新案登録出願(昭和六二年八月二九日出願公開)をし、昭和六二年に右包袋の意匠登録出願をしたこと(甲四九、五五、五六、乙五~七、被告橋本)、(7)  昭和六二年当時、原告らは、籾袋の需要が前年より大幅に落込んだこと及び被告らの下請生産量(全体の二〇パーセント余り)が群を抜いていたことに対する配慮から、被告らに対する認証票の交付を制限してその下請生産割当枠を減らせようとしたが、これに被告らは反発していたこと(甲二〇の6~10、二三の2~4、八二、乙一九の1~4、証人山代、証人田治、被告橋本)が認められる。

(二) 結論

右(一)認定の事実関係を総合考慮すると、右(一)(2) の承認は、原告井関の下請生産品としての採用の前提となる技術的見地からの確認にすぎないと考えられ、右(一)(4) ないし(7) の事実(特に当時、右縫製方法に係る包袋に関する権利を留保しつつ、下請生産割当枠を維持しようとしていた被告らと、被告らの下請生産割当枠を制限しようとする原告井関とは利害が対立していたこと)に照らすと、右(一)(1) ないし(3) の事実があったからといって、原告ら主張の被告籾袋を本件下請生産契約の対象物件に含める旨の合意が成立したと認めることはできない。そして、他に右合意を認めるに足りる証拠はない。

従って、その余の点につき判断するまでもなく、原告井関の本件下請生産契約違反を理由とする損害賠償請求は理由がない。

四  原告工業会の損害賠償請求の当否

以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告工業会の損害賠償請求もすべて理由がない。

(裁判官 庵前重和 長井浩一 辻川靖夫)

別紙 被告物件目録

添付のAないしDの図面記載の籾袋であって、

(1)  角袋本体1の上辺は、Dの図面記載のとおり外側に折り曲げて縫着され、

(2)  該上辺を開口部2とし、

(3)  該開口部2には、ファスナー3が縫着され、

(4)  前記角袋本体1の下辺は、外側に折り返して縫着され、

(5)  前記角袋本体1の角部には、いずれも、縫い合わせ4が斜めに施されると共に、

(6)  上部角部には、逆台形の補強片6が縫着され、

(7)  該補強片6の縫着部には、環状鳩目金属が装着された掛合用孔5が穿設されている、

(8)  籾袋。

A 被告籾袋図

B 被告籾袋図

C 被告籾袋図

D 被告籾袋上辺開口部拡大図

別紙 原告物件目録

(一) 添付の(一)AないしDの図面記載の籾袋であって、

(1)  角袋本体1の上辺は、(一)Dの図面記載のとおり内側に折り曲げて縫着され、

(2)  該上辺を開口部2とし、

(3)  該開口部2には、ファスナーが縫着され、

(4)  前記角袋本体1の下辺は、外側に折り返して縫着され、

(5)  前記角袋本体1の角部には、いずれも、縫い合わせ4が斜めに施されると共に、

(6)  上部角部には、逆台形の補強片6が縫着され、

(7)  該補強片6の縫着部には、環状鳩目金属が装着された掛合用孔5が穿設されている、

(8)  籾袋。

(二) 添付の(二)AないしC及び(一)Dの図面記載の籾袋であって、

(1)  角袋本体1の上辺は、(一)Dの図面記載のとおり内側に折り曲げて縫着され、

(2)  該上辺を開口部2とし、

(3)  該開口部2には、ファスナー3が縫着され、

(4)  前記角袋本体1の下辺は、外側に折り返して縫着され、

(5)  該下辺には、取っ手7が縫着されており、

(6)  前記角袋本体1の角部には、いずれも、縫い合わせ4が斜めに施されると共に、

(7)  上部角部には、逆台形の補強片6が縫着され、

(8)  該補強片6の縫着部には、環状鳩目金属が装着された掛合用孔5が穿設されている、

(9)  籾袋。

(一)A 原告籾袋図面

(一)B 原告籾袋図面

(一)C 原告籾袋図面

(一)D 原告籾袋上辺開口部拡大図

(二)A 原告籾袋(取っ手付)図面

(二)B 原告籾袋(取っ手付)図面

(二)C 原告籾袋(取っ手付)図面

実用新案公報<省略>

★ 本件意匠公報<省略>

★ 類似意匠公報(一)~(六)<省略>

★ クボタ意匠公報(一)(二)<省略>

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